発達障害の障害年金と認定基準

発達障害の障害年金請求は、難しいものといえます。

といいますのも、藤井法務事務所にご相談していただくお客様のうち、「自分で障害年金請求したのだけれど認められなかった。」という方が非常に多くいらっしゃるからです。

年金請求して認められないのは、明らかに障害の程度が軽いものは別にして、ご自分で手続きを進めることで診断書などの取り寄せや申立書の作成などで余裕がなく、自分の状態が反映した書類になっているのか確認することのないまま提出していることがその一因ではないかと思います。

また、発達障害の場合は、初診日の取扱いにも注意が必要です。

発達障害は、認定基準の中に「知的障害を伴わない者が発達障害の症状により、初めて受診した日が20歳以降であった場合は、当該受診日を初診日とする。」とあることから、通常、発達障害単独の発症の場合は実際に初めて病院にかかった日が初診日となります。
藤井法務事務所で実際に申請した事例の中でも、アスペルガー症候群で50歳を過ぎて初診日となったケースがあります。

そのほか、うつ病で精神科を受診していたところ、発達障害が見つかったというケースも多くありますが、発達障害を主病としてご自分で請求して不支給となる事例はこのパターンの中でよくみられます。

発達障害での障害年金申請は難しいところも多いので、発達障害に対し十分に経験のある社会保険労務士に相談して進めるのがいいと思います。


もくじ

発達障害の認定基準は?

「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 平成28年6月1日改正」を参考に認定基準のポイントを確認します。


発達障害の認定基準

認定要領

発達障害とは?

発達障害とは、自閉症アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害学習障害注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものをいいます。


障害の認定方法

発達障害については、たとえ知能指数が高くても社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受けることに着目して認定を行います。また、発達障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定されます。


初診日の取り扱い

発達障害は通常低年齢で発症する疾患ですが、知的障害を伴わない者が発達障害の症状により、初めて受診した日が20歳以降であった場合は、当該受診日を初診日とすることとされています。


各等級に相当すると認められるものの一部例示


障害の程度 障害の状態
1級発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの
2級発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの
3級発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働に著しい制限を受けるもの

日常生活能力等の判定

日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮のうえ、社会的な適応性の程度によって判断するよう努めるものとされています。


就労している場合の取り扱い

勤労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事しています。

したがって、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、従事している期間、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意志疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断されます。

等級判定のガイドラインについて

発達障害に係るガイドライン

障害基礎年金の認定に地域によって格差が生じていたことから、障害等級判定ガイドラインが作成され、平成28年9月1日以降の等級判定の審査に適用されています。


障害等級の目安

54321
3.5以上1級1級又は2級
3.0以上3.5未満1級又は2級2級2級
2.5以上3.0未満2級2級又は3級
2.0以上2.5未満2級2級又は3級3級又は3級非該当
1.5以上2.0未満3級3級又は3級非該当
1.5未満3級非該当3級非該当
*横軸

「程度」→診断書の記載項目である「日常生活能力の程度」の5段階評価を指しています。

*縦軸

「判定平均」→診断書の記載項目である「日常生活能力の判定」の4段階評価について程度の軽い方から1~4の数値に置き換え、その平均を算出したものです。

*この障害の目安は、障害の程度の認定における参考とされますが、目安だけでは捉えきれない障害ごとの特性に応じて考慮すべき内容を診断書等から審査して、最終的な等級判定が行われることととされています。



以下、 障害年金研究室-藤井法務事務所 で申請して障害年金を受給している事例をご紹介します。

発達障害 障害年金申請事例

  • 疾患名:アスペルガー症候群
  • 性別・年齢:男性20歳
  • 住所地:北海道
  • 障害の状態:発達障害【コミュニケーション、こだわり、社会性】、抑うつ状態【思考・運動制止、刺激性・興奮、憂うつ気分、自殺企図、希死念慮】
  • 決定等級障害基礎年金2級

発症から障害年金申請までの経緯
妊娠33週で出生。生後5日目に脳の腫れにより入院した。

その後、1歳半の検診で言葉の遅れを指摘される。

幼児期から極端な感情表現、家庭での攻撃的な行動、他の子供とかかわれない、体がしっかり維持できないなどがあり病院を受診した。

小学校入学後、場に合わない言動、おどけ、ふざけなど問題行動を繰り返し、学校と行政の児童相談などに相談した。専門医を紹介され受診したところ、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断された。

さらに他の医師の診断も受けるよう紹介を受け受診したところアスペルガー、不安障害、発達性協調性運動障害との診断を受けた。

小学校4年生頃から、からかいやいじめを受け、精神的に不安定になってパニック発作を頻繁に起こすようになり、向精神薬や抗うつ薬などを服用するようになった。

中学、高等養護学校でも同様であった。

学校卒業後も頻繁にパニック発作があり、また、精神状態の悪化から自殺未遂があった。

現在、中途覚醒、不眠、短気、憂うつ感等がある。身辺の処理も自分ではまったく不十分で親が機嫌をみながら援助している。特定のものへのこだわりがあり手に入れるまで気が済まない。自殺しようとする行動がたびたびあり親が監視している。

請求人様の20歳の誕生日を経過したのち、親御様から障害年金のご相談を受け、手続きを代行した。


請求手続き・学んだこと
手続にあたっては、お母様と十分に相談しながらすすめました。

初診でかかった病院で受診状況証明書を入手できました。

複数の病院を受診しており、請求人様を診察した医師も多数でしたが、アスペルガー症候群と診断し、その後長く診ていた医師に診断書の作成をお願いしました。

病歴就労状況申立書を請求人様の状態が十分反映するように丁寧に作成し、20歳を障害認定日とした申請手続きを行いました。

20歳前障害による障害基礎年金2級と決定されました。

なお、この事例はその後の更新(障害状態確認届)で等級が変更になり、現在は1級の障害基礎年金を受給されています。


その他の申請事例(受給事例)

広汎性発達障害、軽度精神遅滞 障害年金申請事例-20歳前障害による基礎年金 1級 事後重症

広汎性発達障害 障害年金申請事例-障害認定日決定、3級

広汎性発達障害 障害年金申請事例-事後重症、2級

広汎性発達障害、うつ病 障害年金申請事例-障害厚生年金2級

広汎性発達障害、うつ病 障害年金申請事例-20歳前障害基礎年金2級

アスペルガー症候群 障害年金申請事例-事後重症‐障害者特例(老齢厚生年金)



発達障害による年金申請のポイント

ご家族の協力が必要なケースも多い

発達障害の方のうち症状の重い方については、自分で手続きを進めることは大変厳しいと思いますので、ご両親などご家族が主導して動く必要があります。


病歴就労状況申立書は丁寧に

発達障害の場合も同様に、障害状態を的確に記載して主張しなければなりません。できるだけ、詳しく書いた方がよいでしょう。


20歳を過ぎてからの初診日という場合も多い

成人後、厚生年金に加入している期間中に初診があるというケースもよくあり厚生年金を請求できることも多いです。

発達障害による障害年金の申請で共通するのは、病歴申立書が0歳から記載しなければならないということです。
障害状態が反映した文章を考えて記載するのはかなり大変な作業です

また発達障害の申請は、発達障害単独での請求では問題のあるケースは少なくないですが、たとえばうつ病や統合失調症にあわせて発達障害がある場合などはよく状況を見極める必要があります。

このような場合は、発達障害による障害年金の申請に詳しい社会保険労務士に相談した方がよいでしょう。